Vol.169 DARPA・負傷兵を救う新たな治療法を開発中

DARPA・負傷兵を救う新たな治療法を開発中

細胞内の生化学反応を遅らせることで、負傷後の時間を引き延ばす!

こちらの記事のタイトルで、特に「細胞内の生化学反応を遅らせる」という一文に注目された方が多いのではないでしょうか。戦場における負傷兵の治療は、どれだけ短時間で且つ適切な処置が行えるか、もしくは設備の整った医療施設へいち早く搬送することが出来るかどうかが問われますが、「戦場」という状況下では、必ずしもこれらが実現できると限らないことは想像に難くありません。

DARPA(アメリカ国防総省・国防高等研究計画局)が開発を進めているのは、従来のアプローチとはまったく異なり、生死を左右するうえで最も重要とされている「golden hour」=負傷発生から60分以内の時間を、「引き延ばす」というものです。「Biostasis Program」と呼ばれるこのアプローチでは、負傷兵の細胞活動をタンパク質レベルで抑制する生化学物質を用いて、一時的に仮死状態にします。これにより負傷兵の生物学的な反応が遅くなり、つまり「golden hour」が延長することになりますので、結果として致命的状態になる前に治療や医療施設への搬送が行えるチャンスが増えて生存率が高まる、というものです。
「Biostasis Program」マネージャーのTristan McClure-Begley氏によれば、この新しい治療法を実現するためには全ての細胞活動をほぼ同じ速度で遅らせることが必要であると言います。治療が完了し、元の状態に戻った時に細胞活動への損傷を最小限に抑えられるためです。これとは逆に、タンパク質レベルで一部分の細胞活動だけを制御するアプローチの研究も進めています。この研究をより包括的な治療に生かすために、地球上のあらゆる環境で生き延びることが出来ると言われている「クマムシ」や、数日間も完全に凍結した状態でも生き延びることが出来る「カエル」等の生態を例に挙げ、共通の生化学的概念を自然から見出すことも研究対象としているようです。

DARPAは「Biostasis Program」の基礎研究期間を5年間と設定し、この間に急性傷害や感染、死亡のリスクを低減するための複数のアプローチを提供することを目的としています。この研究が進み、実用段階に漕ぎつけた際には、戦場だけでなく、ありとあらゆる救急医療現場にも活用できるのではないでしょうか。今後も適時、着目して参りたいと思います。

■参考情報:DARPA 2018年3月1日
Slowing Biological Time to Extend the Golden Hour for Lifesaving Treatment
https://www.darpa.mil/news-events/2018-03-01

ページトップへ